thebluecastle

ちょっと魔法でばんそうこ

ひっそり隠れていることしかできなかった
そこから見える分だけの空を
しばらく眺めて 遠い空はずんずん動いて
さっきまでそこにあった真綿が
絵筆で上塗りするみたいに消えていく
それをずっと見ていたよ
十字に交差した飛行機雲も
いつの間にか どこかへ
中世のヨーロッパ人がその特徴をそっくり描いたように
わたしの細胞も 雲をとらえる
そこから見える分だけの空を
誰にも見つからないように
穴の開くまで見上げた
それしかできなかったから
いつかの誰かみたいに
手を伸ばせば 本当に届きそうで
夏と秋の間の空を 見える分だけ精一杯
死角で見えない以外のぜんぶを
ひとりしゃがみこんで 希望を託すみたく
まあるく動く空を



(2021年10月17日)